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社説・コラム

社説 自民新総裁に岸田氏 政権不信 拭い去れるか

 退陣を表明した菅義偉首相の後任の自民党総裁に、岸田文雄前政調会長(衆院広島1区)が選ばれた。きのうの総裁選で、第1回投票からトップに立ち、決選投票で河野太郎行政改革担当相を突き放した。

 岸田氏は今後、第100代の首相に選出される。被爆地の広島市が地盤だけに、核なき世界に向けた尽力を期待したい。まずは来春開催の核兵器禁止条約の第1回締約国会議へのオブザーバー参加に踏み切るべきである。連立を組む公明党も賛同しており、首相として指導力を発揮すれば実現できるはずだ。

 眼前には、課題が山積している。中でも重要なのは、菅政権によって失われた政治への信頼をどう回復するか、だろう。きのうの就任あいさつで岸田氏は「国民の声が政治に届いていない。政治が信じられない」といった切実な訴えを聞き、民主主義の危機と言い切っていた。

 確かに菅政権は、新型コロナウイルス対策が後手後手で、緊急事態宣言下にもかかわらず、国民の不安を軽んじるような格好で東京五輪を開催した。

 背景には、根拠のない楽観主義や、国民に説明する姿勢と能力の乏しさなど、安倍政権から続く体質がある。官僚の人事権も含めて官邸に権力が集中し、批判に耳を貸さなかった。「私には聞く力がある」と岸田氏が繰り返すのも、従来の姿勢を変えようとしているのだろう。

 異論をはねつける姿勢は、安倍、菅政権の「負の遺産」と言えよう。それが何をもたらしたか。一例が財務省の公文書改ざんといった官僚の忖度(そんたく)だ。

 岸田氏はきのう「生まれ変わった自民党を国民に示す」とも述べた。言葉通り、負の遺産は引き継がず、政権への不信を拭い去れるかがまず問われる。

 ただ、今後も安倍晋三前首相らの意見を重んじざるを得ないようだ。というのも決選投票で岸田氏は、高市早苗前総務相の陣営から協力を得た。つまり高市氏を強力に推していた安倍氏の手助けがなければ、勝ち抜けなかったかもしれない。

 総裁選でも、森友学園を巡る問題で岸田氏の対応にはぶれが見られた。「調査が十分かどうかは国民が判断する話だ」と述べたが、その後、「再調査は考えていない」とトーンダウン。これでは、国有地売却への関与が疑われる安倍氏への配慮だと勘ぐられても仕方あるまい。

 後を絶たない「政治とカネ」問題でも、国民の声を聞く姿勢が求められる。とりわけ、一昨年の参院選広島選挙区での大規模買収事件の原資を巡る疑惑である。自民党公認候補だった河井案里氏と、夫で元法相の克行被告の側に党本部から渡された1億5千万円の問題だ。

 党本部は先週の会見で、夫妻による「ばらまき」に使われたとの疑惑を否定した。しかし夫妻の説明をうのみにしただけで疑惑解消には程遠かった。

 国民に愛想を尽かされた看板を新しくしたが、中身は変わっていない。間近に迫った衆院選を前に、党の「顔」を変えただけなら国民に見透かされよう。今回、永田町より感覚が国民に近い党員・党友票は、5割近くが河野氏を支持した。岸田氏が今後、永田町の有力者の声と国民の声のどちらを大事にするのか。総裁選に立候補した時の思いを忘れてはならない。

(2021年9月30日朝刊掲載)

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