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「核なき世界へ全力」 岸田首相会見 力強く 「保有国動かしてこそ」

 憲政史上第100代にして被爆地からは初の選出となった岸田文雄首相(衆院広島1区)の政権が4日、スタートした。核兵器廃絶を「ライフワーク」とする岸田氏の姿勢は、広島から世界に平和や軍縮を唱えた元首相2人と重なる。大正期に軍縮の旗を振った加藤友三郎氏と、米ソ冷戦が終結した1990年代初頭に政権を担った宮沢喜一氏である。(樋口浩二)

 「被爆地広島の首相として、核兵器のない世界に向けて全力を尽くす」。官邸の主となった岸田氏は4日夜、就任記者会見で力強く訴えた。

 昨秋出した著書の表題は「核兵器のない世界へ 勇気ある平和国家の志」。外相時代の2016年5月、現職米大統領としては初となるオバマ氏の広島訪問に力を尽くしたことに触れ、核廃絶は「被爆国の政治家としての責任だ」と記す。

 ただ、そのプロセスには「核の傘」に頼る米国に「寄り過ぎ」との評もつきまとう。この日の会見でも外相時代に「(核廃絶の)厳しい現実に直面した」と強調し、「核兵器保有国を動かしてこそ現実は変わる」と語った。

 米国との関係を重視する意味では加藤氏に重なる部分もある。100年前の21年から翌年にかけて米ワシントンで開かれた海軍軍縮会議。加藤氏による主力艦の保有トン数削減は、米国の意に沿った決断だった。米国に頼らざるを得ない日本の経済力を見据えた「現実的選択」との見方が強い。

 91~93年に政権を担った宮沢氏は憲法9条の平和主義を重んじ、穏健な「ハト派」の代表格とされた。一方で外相時代の76年、米国の核能力を日本の核抑止力とすることで核拡散防止条約(NPT)の批准を決めた。岸田氏は初当選した93年衆院選で応援を受け「政治の師」と仰いだ。

 ことし1月、核兵器禁止条約が発効した。非保有国が練り上げ、核兵器の存在を「違法」と断じる。56カ国・地域が批准し賛意が広がる中、ここでも岸田氏は「米国を条約に一緒に連れて行くのが唯一の戦争被爆国の責任だ」と、日本単独では加わらない「現実路線」(外務省幹部)を貫く。

 「率先して条約への支持を呼び掛けるべき被爆国日本が、なぜ」。条約に背を向け続けた政府に被爆者の落胆は深まった。

 年明けには5年に1度のNPT再検討会議が、3月には核兵器禁止条約の第1回締約国会議が控える。「ヒロシマ」の期待を背負うリーダーの手腕が早速問われる。

(2021年10月5日朝刊掲載)

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