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連載・特集

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊 <1>

 尾道市出身の大林宣彦監督の遺作となった「海辺の映画館 キネマの玉手箱」が31日から全国公開される。この作品が撮影されたのは2年前の夏の尾道だった。その撮影期間中の1カ月間、私はプロデューサーとして付きっきりで、大林監督の仕事ぶりをしっかりと目と心に焼き付けた。

 現代日本を代表する役者たちが続々と尾道にやってきて演技をする中、今回の製作には関係ない若い映画監督たちも次々と尾道の撮影現場へ陣中見舞いに訪れた。当時80歳だった大林監督は、子どもの世代に当たる彼らに必ず声を掛け、こう語っていた。

 「僕は黒沢明監督の遺言『映画の力で未来を戦争のない歴史にする』を、引き継いで映画を撮っている。僕のあとは君たちに頼むぞ。まあ、それは僕があと30作品作った後でいいけどね」と。

 大林監督は、自身がこれまで生み出してきた映画作品の多様性あふれる映像表現のように、発する言葉一つ一つ、著作の一文一文で、聞く者、読む者に感動を与える人だった。

 通常は演技指導の際、表情やしぐさについては俳優に委ねることが多いが、せりふは一切変えることを許さなかった。大林監督の言葉は、全て彼のフィロソフィーに沿っており、せりふにはそれだけの言霊を込めていたからだ。

 その言霊にキャスト・スタッフ全員が酔いしれて、日々の撮影が進んでいった。(もんでん・だいち 映像プロデューサー=広島市)

(2020年7月29日朝刊掲載)

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊②

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊③

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊④

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑤

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑥

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑦

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑧

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