×

連載・特集

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊 <8>

 「門田くん、僕は今の世の中の空気感にとても危険を感じるんだ」。企画打ち合わせ当初から大林宣彦監督はそう言っていた。「表現者は、過去から学んで未来のために今何をすべきかを常に追求している。だから優秀な表現者は潜在的な予知能力を持っている」と教わった。監督は、戦争、あるいはそれに似た何かが日本に起きる気がしてならなかったようだ。

 敗戦少年だった大林監督は、正義というものを信じない。正義と正義がぶつかれば争いが起こる。しかも一夜明けたら「昨日までの正義は間違いでした」という事態まで招く。そんな実体験から「人間の正気を描く」ことを自身のアイデンティティーとしてきた。

 戦争に立ち向かうには正義では追いつかない。大切なのは人間が本来持っている自由で平和で穏やかに人生を歩みたいという気持ち。それが人間の正気だ。大林監督は、正しい気持ちを持つ大切さを表現し続けてきた。その集大成が「海辺の映画館 キネマの玉手箱」である。

 約1年にわたる編集を経て、昨年6月21日、初号試写会が東京で開かれた。大林監督ほどの経歴を持っていても感想への一抹の不安があったようだが試写会後は、監督の元に次々称賛の言葉を述べる人の列ができた。私も興奮し「監督の最高傑作ができた」と伝えた。

 「夢を持ちづらい人生。ならば映画でハッピーエンドを体験しようじゃないか。映画から得たハッピーエンドの体験が実社会でも生きることになる」。大林監督から最後にいただいた言霊である。(映像プロデューサー=広島市)=おわり

(2020年8月7日朝刊掲載)

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊①

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊②

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊③

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊④

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑤

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑥

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑦

年別アーカイブ