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連載・特集

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊 <4>

 大林宣彦監督の尾道3部作に感銘を受けた私は、仕事に行き詰まると独りで尾道を訪ねるようになった。尾道はすぐ迷子になれる。しかも時空を超えた感覚も味わえる。30歳手前だった私を、複雑な社会構造を知らなかった多感な10代に引き戻してくれたのだ。

 あてもなく山、海辺、路地をさまよう私に、尾道で暮らす人々は「こんにちは」と、気軽に声をかけてくれる。本通り商店街の行商のおばあちゃんは「お兄ちゃん、今日はええシャコがおるよ」とお勧めの魚を教えてくれた。まさにリアル大林映画の町だった。

 何度か通ううちに、大谷治さんの営む喫茶店「こもん」が、迷い道散策の拠点となっていった。私より6歳先輩の大谷さんは「転校生」からずっと大林作品をボランティアとして支えている人だ。大谷さんと知り合ってしばらくすると、帰郷した大林監督との席に呼んでもらえることになった。

 初対面の時はもちろん、大林監督とどんな話をしたのか、緊張のあまり実は何も覚えていない。知り合ってから、仕事をご一緒するまでに10年かかった。そしてやっと実現したのが、大林監督の自叙伝的作品である映画「マヌケ先生」(2000年)だった。

 私が勤めていた中国放送がテレビ放送権、DVDを販売するバンダイビジュアルがビデオ化権、そして監督の会社「PSC」が映画化権を持つという、分かりやすい製作委員会方式で製作された。いうなら「尾道3部作外伝」である。企画・撮影は1997年。しかし私はその年、とんでもない失敗をしでかすのである。(映像プロデューサー=広島市)

(2020年8月1日朝刊掲載)

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊①

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊②

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊③

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑤

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑥

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑦

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑧

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