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連載・特集

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊 <6>

 1998年の全国ネットテレビドラマ「マヌケ先生(大林宣彦自伝)」のプロデューサーを体験したことで、私は21世紀をあまり間違うことなく歩んでいる。

 私のプロデュース作品のフィロソフィーは大林作品から学んだ「郷土愛」。その思いを全ての作品(テレビ番組、映画、イベント)で表現してきた。それだけに、どうしても大林監督と、監督の古里である尾道との関係が気になって仕方なかった。

 「大林監督はなぜ20年も愛する尾道で映画を撮らないのか?」「大林監督に恩返しをしたい。それは尾道で映画を撮ってもらうことではないのか?」。その思いは私の中で年々強くなっていった。

 尾道の盟友である大谷治さんと相談し2017年、ステージ4の肺がんで余命3カ月と宣告されながらも映画「花筐/HANAGATAMI」を完成させていた大林監督の東京のご自宅を訪ねることにした。監督の大好物、朱華園のラーメンを持って。

 ラーメンを食べ終えた大林監督に私は勇気を振り絞って、尾道で映画を撮るようお願いした。これは20年間、監督にお会いするたび、口にしていたことだが、この日はそれまでとは違うプロデューサーとしての覚悟があった。その覚悟とは製作費を集めること。それに20年かかってしまったのだ。

 「門田くん、そろそろ尾道で撮るか」。その言葉をもらった時は飛び上がるほどうれしかった。20年ぶりの大林監督の尾道映画。私が持っているプロデューサー力を全部出し切ろう。武者震いしながら大林監督の自宅を後にした。(映像プロデューサー=広島市)

(2020年8月5日朝刊掲載)

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊①

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊②

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊③

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊④

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑤

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑦

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑧

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