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連載・特集

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊 <7>

 広島には郷土愛を持った起業家がたくさんいる。その中の一人が大林宣彦監督のためならと、出資を決めてくれた。ここから「海辺の映画館 キネマの玉手箱」が具体的に動き始める。脚本は何度も推敲(すいこう)を重ね、そのたびに芸術としての純度を高めていく。ただ一つ気がかりだったのは、推敲のたびに大林監督が痩せていったこと。ただ眼光は輝きを増していった。それは2018年8月に撮影が始まってからも同じだった。

 私はそんな眼光に甘えてしまっていた。こんな眼力を持っている人が倒れるはずがない。私だけでなくキャスト・スタッフ全員がそう感じ、信じていたはずだ。そんな私たちの気持ちを察してか、大林監督は「このあと、30作品撮るからね」と周りを安心させた。

 記録的な大雨、猛暑の尾道。午前8時から深夜0時まで1カ月も冷房の効かない倉庫の中の現場に立ち続けた大林監督。その気力・体力はすさまじく、キネマの神様が監督の中に宿っていたのかもしれないとさえ思えた。

 撮影中、最も印象に残っているのは俳優に「歴史は変えられないけど未来は変えられる」というせりふを与えたことだ。元来、表現者は直接的な表現を嫌う。表現したいことは作品全体から感じ取ってもらいたいと思うからだ。しかし大林監督は「花筐/HANAGATAMI」(17年)でも「青春が戦争の消耗品だなんてまっぴらだ」と俳優に言わせている。

 大林監督は作品で表現したいことを直接言葉にした。大監督でなければ、自信がなければできない英断だった。(映像プロデューサー=広島市)

(2020年8月6日朝刊掲載)

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊①

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊②

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊③

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊④

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑤

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑥

緑地帯 門田大地 大林宣彦監督の言霊⑧

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