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連載・特集

『緑地帯』 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <2>

 かつて写真集出版は写真家人生最大の目標のひとつとされ、とてもハードルの高いものだった。しかし現在では、スマートフォンひとつで写真撮影から加工まで行え、綺麗(きれい)に製本された写真集が自宅に届く。それをインターネットを通じて販売することも可能だ。もはや人類総写真家と言っても過言ではない時代にあって、仮にも写真家と名乗る私が何を為(な)すべきか常に考えている。

 作家性を軸に置きながら、客観性を持って伝える。本は人と共有されるものだということを忘れず、その上で伝えたい物語を写真集に落とし込む。その結果、何十年、何百年先の誰かに読んでもらえる本ができたら、これ以上の喜びはない。時代を超えて共有される強度を持った作品を残すことこそ、写真家としての命題だ。

 しばしば、物語を伝える手段として動画制作の優位性を説かれることがある。確かに動画は物語を伝える有効な手段だが、動画のテンポは私の表現したいものとは少しズレがあるようだ。

 オランダの著名なブックデザイナー、トゥーン・ファン・デル・ハイデン氏は、「写真集の速度とリズムは、小説よりも速いが映画より遅い」と言う。

 映画は時間のコントロールが製作者の手の内にあるのに対して、写真集は読者が一枚一枚ページを捲(めく)って自ら物語を展開していく必要がある。このページを捲る「間」こそ、写真集の醍醐味(だいごみ)でありその速度は人それぞれ。パラパラと読み進めることもできるし、前に戻りながら深く読み込むこともできる。

 作り手である私が読み手に速度とリズムを委ねることで、写真集は私の手から離れ、読者それぞれの解釈を経て完成されるものだと考えている。(写真家=広島市)

(2021年10月22日朝刊掲載)

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺のこす <1>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <3>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <4>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <5>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <6>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <7>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <8>

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