×

連載・特集

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <4>

 私が2014年に初めて作った手製写真集「Red String」はたった35冊の手作りの本だ。それが写真集の世界で最も重要な賞のひとつ、パリフォト・アパチャー財団写真集賞にノミネートされたというニュースは、青天の霹靂(へきれき)以外の何物でもなかった。

 その反響は大きく、どうすればこの本を欲しいという全ての人に届けることができるのか。授賞式に参加すれば、出版社との出会いがあるかもしれないと考え渡仏することにした。

 会場では、イタリアで「ceiba」という小さな出版社を起こしたばかりのエバ・クンズさんに声を掛けられた。「ceiba」で初めて出版した写真集も、同じ賞にノミネートされているという。熱心に説明してくれる姿から、他の誰より写真集への情熱を感じた。

 残念ながらフランスでは出版という話には至らなかったが、15年にインドのデリー・フォトフェスティバルでイギリス人写真家サム・ハリスさんに出会ったことで急展開を迎える。彼は出版したばかりの写真集のPRに来たという。まるで家族アルバムのような佇(たたず)まいの彼の本に、私は一瞬で惹き込まれた。彼の撮影した写真だけでなく、古い写真や走り書きのメモまで挿入されている。

 そしてその本は「ceiba」が出版した2冊目の写真集だという。この出版社となら、きっと素敵(すてき)な本が作れるに違いない。エバさんに連絡してみるとすぐに返信があった。「実は私はあなたの『Red String』を持っているの。でもこの本が35冊しか世の中に存在しないことを残念に思っていたわ。ぜひ一緒に素晴らしい本を作りましょう」

 振り返れば私はいつも写真集に導かれ、写真家活動を続けることができている。(写真家=広島市)

(2021年10月26日朝刊掲載)

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺のこす <1>

『緑地帯』 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <2>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <3>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <5>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <6>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <7>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <8>

年別アーカイブ