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連載・特集

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <6>

 2006年に写真を始めて以来、長くサラリーマンと写真家の二足の草鞋(わらじ)を履いて活動した。安定した収入は捨てがたかったが、広島と戦争の歴史について取り組みたいという思いが強く、15年に広島に帰郷することにした。

 しかしいざ住んでみると、目にし耳にするのはほとんど原爆についての話ばかり。違和感を覚えずにはいられなかった。自分が広島で受けてきた平和学習を思い返してみても、戦時中に日本が他国に対してどんなことをしてきたかきちんと学んだ記憶はない。

 早速、壁にぶち当たってしまったが、ちょうどその頃、以前訪れた竹原市の大久野島のことを思い出した。調べてみると、同じ広島にあってほとんど語られない暗い歴史があることに吃驚(きっきょう)し、この島にのめり込むことになった。

 毒ガス製造に携わっていた方々にも話を聞きに行った。彼らは毒ガスの影響で慢性気管支炎に罹(かか)り戦後も長く苦しめられてきたが、その毒ガスは中国戦線などで使用、遺棄され多くの被害者を出してきた。人は彼らを戦争の被害者であり加害者であると言う。

 元工員の伊藤大二さんは「自分も大きな怪我(けが)を負ったけれど、その毒ガスによって人を殺していることまで考えが至らなかった。簡単に被害者であり加害者であると言われますけど、そんな簡単なことで済むものではないです」。常に穏やかな伊藤さんだが、その時だけは語気が強かった。

 我々の何げない言葉が、時に彼ら証言者を傷つける。私自身、信念を持って制作に取り組んでいるつもりだが、簡単に加害者にもなりうるのだ。そして彼らの証言を聞けることは、決してあたり前のことではないということに気付かされる機会となった。(写真家=広島市)

(2021年10月28日朝刊掲載)

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺のこす <1>

『緑地帯』 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <2>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <3>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <4>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <5>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <7>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <8>

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