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連載・特集

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <8>

 私が取り組む「Hiroshima Graph」シリーズは戦争をテーマにしている。戦争体験者の証言は作品を構成する重要な要素の一つだ。聞き取りを行えるのもいつまで可能だろうか。残された時間は、多くない。

 そうした理由から制作に何十年とかけることはできない。そこで自分で撮影した写真だけでなく、資料や古い写真なども用いている。自分で撮影した写真以外の要素も取り入れることで、作品に地層のような厚みが生まれるという副産物もある。大久野島の写真集も祖母の被爆体験についての写真集もこの方法で制作してきた。

 これから取り組むのは、祖父の戦争体験についてだ。

 祖母は私が聞き取りを行うまで家族の誰にも戦争体験を語ってこなかったが、亡くなった祖父も家族に多くを語らなかった。祖父は呉の海軍にいたということ以外に、家族の誰も詳細を知らない。それに、その頃の写真もほんの数枚しか残されていない。

 しかし私が幼い頃、「海軍で(おそらく回天だと思われる)人間魚雷を造っていた。誰もそれとは教えてはくれなかったが、図面を見ればすぐに分かった」と確かに聞いた記憶がある。

 同じ日本人が自爆するための兵器の製造に携わっていた祖父の心境は計り知れない。戦後もその事実とどう向き合い祖父は生きたのか。祖父の立場に成り代わって考えることは不可能だが、資料を集め、証言を集め、事実や証拠から想像してみることなら私にもできる。

 想像の先に何が見えるだろう。私はいつも形として見えないものを探し、写真集という形ある物に表すことに、写真家としての生きがいを感じている。(写真家=広島市)=おわり

(2021年11月2日朝刊掲載)

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺のこす <1>

『緑地帯』 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <2>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <3>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <4>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <5>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <6>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <7>

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