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連載・特集

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <3>

 私の最初の手製写真集「Red String」は両親の熟年離婚にまつわる本で、両親が婚姻関係にあった年月である35年にちなみ限定35冊制作した。大久野島の毒ガス製造に関する「Hiroshima Graph―Rabbits abandon their children」は戦後73年目に制作したので73冊。「Hiroshima Graph―Everlasting Flow」は、同じく戦後75年目で75冊という具合だ。

 「たった数十部しかない本、いったい誰に見てもらえるの」と尋ねられることがあるが、「Everlasting Flow」だけでもこれまで17カ国の人々に購入され、11カ国のフォトフェスティバルで展示されてきた。大学や美術館の図書館にも収蔵いただいている。おそらく書店に並ぶ大半の書籍よりも、多くの国の人たちに読んでもらえているはずだ。

 写真集は出版のなかでもとても小さな市場だが、それ自体が作品であると位置づけられ強い存在感を放っている。海外には、とりわけ作家自身がプリントから製本まで手掛けた写真集に根強いファンが存在する。彼らは会員制交流サイト(SNS)などを通じて、お薦めの本を積極的に紹介してくれる。

 世界中で手製の写真集を対象としたアワードも増えている。受賞候補作品に選ばれることで、世界各地の写真祭で展示される。受賞に至らなかったとしても出版に繋(つな)がったり、写真展の出展依頼が舞い込んだりする。作家とキュレーター、ギャラリスト、出版社の出会いの場として機能しているのだ。

 海外に視野を広げたことで、私の活動範囲は驚くほど広がった。(写真家=広島市)

(2021年10月23日朝刊掲載)

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺のこす <1>

『緑地帯』 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <2>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <4>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <5>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <6>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <7>

緑地帯 藤井ヨシカツ 手製写真集で記憶を遺す <8>

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